26.地元のサッカーチーム Red devils

 

とうとうサッカーが出来るようになった。

水曜日の練習は仕事が終わってから7時にコートへ向かった。

そのコートはオレが住んでいた家から歩いて20分くらいかかる所にあった。

以前怖くてチビりそうになった通りだ。

チームに浸透して家まで車の送り迎えが付くまでは
例の真っ暗な工場地帯を出来る限り怖い顔を作りながら歩いて通った。

”オレはめちゃめちゃ強えーぞ。絶対襲ってくんじゃねえぞ”

・・・・・・・頼むから見逃して下さい。

 

失禁しないようにトイレは必ず前もって済ませた。

かわいいのう。25歳のオッチャン…

練習は地味できついのが多かったけど(オレの最も嫌いな走りこみも多かった。)

大会がある最初の週の練習日は落ち着いて気負わずサッカーができた。

カンも随分戻ってきたみたいだ。

練習をやってみたイメージはやはり彼らのパワーはハンパじゃないという点だ。

190cm近いヤツなんてゴロゴロいたしキックの距離も全然違った。

でもそれは予想通りだ。

オレは仕事で、2号店から本店にバッグや皮ジャンを届けるために混雑しているピットストリートを走っている時も
人と人の間を縫いながらいつもドリブルのことを考えていた。

急ぎすぎて歩行者相手にフェイントがかかちゃってぶつかりそうになったり・・・。

”バカデカイやつはノロい”と大抵決まってるもんだ…

捕まったらあっという間に飛ばされちゃうんだけど…

要はいかにうまく相手をダマして逃げ切るかということ。それがドリブルだと思う。

オレにピッタリ!!…なんかイヤな人間…。

いまいち自分の実力でチーム入部を勝ち取った気がしてなかったオレは

大会初戦に関して、珍しく1人で”絶対やってやる”と闘志を燃やしていた。

 

その週の土曜日が来た。

いつものように工場内のコンクリート室のシャワーを浴びウェアに着替える。

タバコも吸わずいつものコートに歩き出した。

秋のシドニーはとても天気が良く、空気が澄んでいて20分ほどの散歩は最高に気持ちよかった。
公園にあるコートに着くとこれからの試合を思って気分は高揚してたけど、心地よいテンションが保たれてた。

公園にはちびっこサッカーのプレーヤー達が蟻んこのようにボールに群がっていた。

その中には結構、女のこのプレーヤーもいた。

かわいいなあ。ちびっこ。

そしてハンバーガー片手に狂ったように応援している父兄達。

なんか単純に”いいなあ”と思った。
こんな土曜日いつか子供と迎えてみたい。

こんな公園がもっと日本にもあればいいのに…。

・・・・・・・・

レッドデビルは30数人のプレーヤーとその家族応援団で成っていた。

ちびっこから奥さん、ガールフレンド、親戚まで試合を見に来ていた。

やはり奇妙なアジア人の新メンバーのオレを皆、特異な目で見つめていた。

外国人選手はオレ1人だけだった。

オレが日本人と分かるまで実際1ヶ月くらいかかった。
(日本人の肌の色はしてなかった。)

この大会ではチーム内でAチームとBチームに分け、相手チームと2試合づつやっていくというものだった。

 

オレは初戦はBチームのフォワードとして参加した。

試合前マネージャーのジョージに最前列からボールを奪いに行けと指示された。
もちろん奪って点も欲しかったオレは普段よりも人一倍走った。

体は思ったように動く.調子は悪くないぞ…。
しかし、前半は一人で空回りしていた。

どうもハーフとのタイミングが合わずオレが前に出過ぎてオフサイドばっかもらっていた。

 

一人でフライングしてたんだなあ。

 

オレが、オレがと血眼になって鼻をフガフガさせながら走っていた。

それにしても惜しい時とか失敗した時の周りのリアクションの大きさには
正直びっくりだった。

WOH!!,とかBOO!!とか忙しい声援だった。

 

前半が終わって0対0。

 

ハーフタイムで、やはりオレのフライングをマネージャーのジョージに注意された。
OK.OKとか返事をしながら…

 

”こりゃ、自分で遠目から1人で持ってく(=ドリブル)しかねえな。”と思っていた。

 

まだ信用のないオレにボールが来るのを待っているだけじゃ
何も変わらないと思ったからだ。

 

後半早々にそのチャンスが訪れた。

 

ドリブルで持っていく為にハーフライン辺りにポジションを取っていたオレは敵からボールを奪うと運良く2人を抜き去った。

仕事効果だ。

そして、いい位置にいたジョージC(チーム内にジョージは5人くらいいた。…わかりずれー)に
ワンツー(壁パス)をしてボールを戻してもらうと
また1人抜き右45度の角度からキーパーと1対1になった。

 

皆がShoot!、Shoot!!と狂ったように叫んでいた。

 

もうペナルティーエリアに入っていた。

 

でもオレはボールを持ち続けキーパーに近づいていった。
キーパーも辛抱たまらん!!とばかりにオレの方へ向かってシュートコースを塞ぎにきた。

そしてキーパーにぶつかるギリギリでシュートを打つジェスチャーを大きめにやって
真横にいたフリーの味方にパスした。

 

彼は落ち着いて誰もいないゴールにサイドキックでボールを蹴りこんだ。
得点になった。

”ζγβτ!!!...っしゃあー!!!”

 

オレはボールがゴールに入るのを最後まで見届ける前にチームの応援席のある方へ何だかわからない雄叫びを大声で叫びながらガッツポーズで全速力で走って行った。

 

大騒ぎだった。

 

興奮してフィールドになだれ込む人もいた。
自分で点を入れたわけでもないのに精一杯どうだーと体で表現した。

みんなダマシたったわい!!

味方さえもそう来ると思わなかったろー。

 

ヒャッー、ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ…

 

・・・おまえ絶対性格悪いだろ…

 

なーんてシュート入る自信なかったのもあるんだけど…

とにかく、めちゃめちゃ嬉しかった。

 

その後3得点を全てアシストして初戦を勝利で飾った。

試合が終わった後、歯が浮くほど皆に誉められ
今日の最優秀選手とかいうのに選ばれた。

でもその事自体より一気に自分を認めてもらえて、色々話し掛けてくれたのが何より嬉しかった。

ようやく現地のサッカーチームに入る事ができたんだ!

 

 

正に厚い雲からようやく太陽が顔を出した心境だった。

大変だったもん。チームに入れるまで…。

 

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